生け花は、花や枝、葉、茎などを素材とし、新たな生命を吹き込む芸術です。
何気なく花を生ける西洋の習慣とは対照的に、花や生きた素材の内面性を引き出し、情緒を表現します。
一輪の花を丁寧に生けることは、熟練した作り手であれば、精巧な生け花に負けないほどの力を発揮するのです。
日本古来から伝わる生け花の精神は、それ自体が奥深いものですが、日常の「花を生ける」という一つの行動を愛おしく感じさせてくれるでしょう。
生け花は、彫刻と似て非なるものです。色彩、線、形、機能を考慮し、作品を作り上げていきます。
一輪の花から数種類の花や枝、自然物を組み合わせたものまで、その大きさや構成は様々で、予想外の形が生まれます。
日本文化では、自生する草花や樹木の多くに象徴的な意味が込められ、季節を連想させるため、伝統的な生け花では、常に象徴性と季節感の両方を優先して生けられてきました。
たとえば、笹は一年中、松や梅はお正月に、桃は3月のひな祭りに、水仙や花菖蒲は春に、ササユリは夏に、菊は秋にと、季節感を大切にしています。
現代の生け花でも、季節感や生けられる環境は同じです。また、花や枝の形がわからないように切り詰めたり、葉っぱに絵を描いたりすることもあるでしょう。
植物の枝は、さまざまな方向に伸びていきますが、最終的には全体のバランスがとれている必要があります。また、花瓶に生けることもありますが、必ずしもそうではありません。
“いけばな”は、素材が美しいだけではダメで、その素材を生かしてより美しいものを作らなければならないのです。
生け花は、他の多くの芸術と同様に、基本をマスターすることが練習の基本であり、そうして初めて、人は花を生け始めることができるのです。
初心者は、日本文化の核である「正確さ」に基づいて、枝や花の正しい切り方、枝や茎を正しく配置するための空間の角度の測り方、生きた素材の保存方法などの基本的な技術や、作業場をきれいに保つためのマナーなどを学びます。
また、素材を見る目を養い、素材の持ち味を引き出し、それがアレンジメントによってどのように変化するかを理解することも学びます。
「投入れ(自然のままの風姿を保つように生けること)」や「盛花(平面的な広がりをもって生け、花を盛り合わせること)」は、初心者であれば2本の背の高い枝と1本の小さな花の束を使うことが多いのですが、基本的な「投入れ」「盛花」は、3本の枝と1本の小さな花の束を使うことが多いのです。
これらは伝統的に天・人・地を表します。
たとえば、基本的な盛花は、浅い容器に水を入れ、その中に剣山(花を固定するための小さなピンのようなもの)を立てます。
そして「真(しん)」「副(そえ)」の2本の枝と「控(ひかえ)」の花を選びます。次に、決まった長さに切りそろえ、一本ずつ角度を変えて剣山に固定する。
そして、剣山を隠すように十字の茎を添えて完成させる流れです。これを何度も繰り返すことで、配置や角度を変えながら、さまざまな形や効果を得ることができるのです。
日本におけるいけばなのルーツは、神道の儀式や、6世紀に中国から伝来した仏教の供花の伝統にあるといわれています。
生け花に関する最初の文献は、15世紀に書かれた「伝書」です。その中には、季節や行事に応じた生け花の作り方が丁寧に書かれており、日本文化が持つ自然への感謝や感性を、生け花が体現していることがわかります。
同じ頃、生け花は世俗的な活動として行われるようになりました。新築の家には必ずと言っていいほど「床の間」と呼ばれるスペースが設けられ、そこに掛け軸や美術品、生け花などが飾られたのです。
また、無常を尊ぶ日本文化の中で、床の間は季節の変わり目や祝い事の際に、定期的に入れ替えられました。このような背景から、花を生けることが「いけばな」への道となり、芸術として認められるようになったのです。
15世紀、床の間の普及と伝書鳩の出現により、生け花が盛んに行われるようになりました。まず、池坊派が台頭しますが、池坊とは、京都の僧が寺で供花をする習慣を受け継いだことに由来します。
その中で、池坊専慶はその巧みな構成力で名声を博し、今日では生け花の最初の巨匠と言われています。この池坊専慶が行った俗流は「立花」と呼ばれるようになりました。
立花は、木の枝に松、菊、花菖蒲、柘榴などの花を2、3本組み合わせた7つの要素(9つの場合もある)で構成されています。
これらの要素は、伝統的に中国の華やかな花瓶の中で、中央に背の高い要素、外側に背の低い要素を配置し、はじけるような三角形の形状になるように組み合わせます。
このように、主要な要素を支えなしに直立させることは、高度な技術が必要です。立花式は最も壮大な構成であると同時に、最も堅固な構成であると考えられています。
元々は寺院に飾られ、後に王宮や富裕層の邸宅に飾られるようになりました。
一方、禅宗の延長線上にある「わびさび」や「茶道」の美意識から、より質素な生け花も人気を集めました。
日本で最も有名な茶人である千利休は、不完全で控えめな美を茶道に取り入れ、その中で花を使いました。立花式の大げさな生け花ではなく、地元の職人が作った簡素な花器に朝顔を一輪挿すなど、ミニマムな一茎の生け花が好まれたのです。
このような儀式を経て、第二のいけばなが形成され「投げ入れ」と呼ばれるようになりました。この「投げ入れ」は、立花流のルールや形式から解放されたものです。
立花のアンチテーゼとして、花は自立せず、茎を支える高い花器に活けられました。立花は世俗的なものでありながら、仏教を起源とする宇宙をテーマとしたものなのです。
200年以上にわたる鎖国により、生け花の技術革新は1868年の開国まで途絶えました。人々はいち早く西洋の習慣を受け入れ、生け花の世界にも大きな変革がもたらされます。
1912年、近代的な生け花の最初の流派「小原流」が誕生しました。
創始者の小原雲心は「盛花」を発表し、洋花を取り入れること、剣山を使って浅い円形の容器で花を立たせるという2つの大きな変化を実現し、生け花を進化させたのです。
盛花は、その柔軟性とバリエーションから、現在ではほとんどすべての流派で定番となっています。盛花の基本は三段構えで、3本の花を固定し、三角形を作るのがほとんどです。
この三角形のシステムに従わないコンポジションはフリースタイルと呼ばれます。フリースタイルとは、それまでのお稽古で培った形、色、線の知識を生かし、必ずしも伝統にとらわれない独創的な生け花を指すこともあります。
1927年、草月流が誕生すると、その流れはさらに加速します。
勅使河原蒼風(父は生け花の師範)は、生け花を技術から彫刻のような芸術へと昇華させ、以来、生け花は芸術とみなされるようになりました。
勅使河原は、より自由な発想で、生きた素材を使っていけばいいと考えていました。土や石や苔といった自然の忘れものも、花と同じように表現する可能性を秘めていると考えました。
そして、優れた生け花は作り手の人生や時代と切り離すことはできない、花は心を映し出すかけがえのない表現手段であると心から信じていたのです。
このような工夫により、立花流は衰退していきました。現在では、池坊、小原、草月の3流派が主流となり、約400の流派が活動しています。
20世紀半ば、生け花の国際化に拍車をかけたのは、日本に滞在しながら生け花を学んだアメリカ人、エレン・ゴードン・アレンです。アレン氏は、生け花が世界の人々を結びつける手段であると考えました。
1956年、アレンは主要な流派と協力して、「花を通じて友となる」をモットーに、一般社団法人いけばなインターナショナルを設立し、外交的使命を果たすことになります。
以来数十年、主要な流派の支部が世界規模で誕生しています。近年では、カミーユ・アンロなどの現代アーティストをはじめ、多くのフラワーアーティストが、生け花の教えをもとに独自の創作活動を展開しています。
生け花は、素材と素材、生徒と生徒、師匠と師匠の関係といった「関係づくり」が基本であることは、生け花をたしなむ人なら誰でも知っていることでしょう。
日本では現在「華道(花道)」という言葉が、生け花の生涯学習としての精神をより正確に表現していると考えられています。
四季折々の自然を取り入れた無常の芸術であるため、いけばなの探求と挑戦には終わりがありません。勅使河原は、生涯にわたって生け花を続けるには、自己満足ではなく、好奇心が必要であると確信していました。
「勅使河原は、生涯を通じた生け花の成功には、自己満足ではなく、好奇心が必要である」と確信していました。
「私たちの作品は多様であるべきです。もし、私たちが冒険するのをやめれば、決して優れた芸術家にはなれないでしょう。」と言っているのです。
これほど多様で創造的な精神、そして花と調和しながら心を癒す奥ゆかしい活動は、他にはないと言っても過言ではありません。
現代においては、特に技術がなくても、花瓶というおしゃれなインテリア雑貨が、一輪の花を一つのアートにしてくれます。
すっきりとしたグラフィックラインやパターン、愛らしいフォルムの花器は、野の花のブーケや小枝、一輪の花を活けるのにぴったりです。
ユーカリはインスタグラムでも人気ですが、このようなスタイリッシュなタイプの花器に一輪で挿したことで話題となりました。
オフホワイトなどのパウダーカラーは、特にグリーンの葉と相性が良いので、花瓶のトレンドにもなっています。
遊び心のあるパターンやオーナメントにも注目です。透明度が高いクリアの花瓶は、軽やかな印象で空間に落ち着きと余裕を与えてくれるでしょう。
一輪の花や草花を飾るなら、クラシカルな白磁の花器や、抽象的な構成、大胆で遊び心のあるデザインなどがおすすめです。いずれも人気の高いエキゾチックな花を、引き立ててくれます。
試験管型やテクノ型のフラワーベースなど、自然とは対照的なデザインも魅力的です。古来より伝わる生け花の精神を知り、暮らしにさりげなく取り入れましょう。
現代では、美しい花々をより一層引き立てるのは、さまざまなデザインを主張する花瓶やフラワーベースの存在でしょう。
巨大な花を咲かせるにも、繊細な草花を組み合わせるにも、花が踊るように豪華なブーケを作ったりするにも、花をサポートしつつ、それ自体がインテリアとなるような、さまざまな形のフラワーベースが必要なのです。
より気軽に、花との暮らしを楽しむなら、まずは一輪挿しからはじめてみましょう。
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